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オープンソースのDTPソフトScribusで始める小冊子の制作

私事ですが、結婚式ツアーの案内冊子を作成しました。

見開き16ページのカラー小冊子です。Mac OS X上のScribus 1.4.0でPDFに出力し、印刷を依頼しました。少量印刷でPDF入稿できるところを探して、最終的に 印刷屋さんドットコム に依頼しました。お値段は結構張りますが、満足のいく仕上がりになりました。

Scribusの実績は掲載されていなかったので、簡単なサンプルを作ってサポートに問い合わせたところ、大丈夫だ問題ないとの旨の回答をいただきました。PDF入稿できると書いてある印刷所でも事前に聞いてみた方がいいと思います。

はじめに

印刷物は自宅やオフィスのプリンタでも出力できます。お金を掛けたくない場合はこれで十分と思います。一方で、印刷屋さんに依頼すると紙の種類を選べたり、綺麗な仕上がりが得られるメリットがあります。

印刷屋さんに依頼する場合はDTPソフトを使うと自由度が上がります。PowerPointなどに比べて以下のメリットがあります。

  • CMYK出力に対応している。
  • 裁ち切りレイアウトに対応している。
  • PDFのフォント埋め込みが確実。

一般的な方はIllustratorInDesignを買った方が確実で早いと思います。オープンソースDTP!!!1という逸般的な方はScribusを使ってみましょう。ただし、日本語組版に対応していないという致命的な問題があるため、用途はパンフレットや小冊子に限られると思います。日本語の長文が中心の場合は(日本語)TeXを使う方が圧倒的に綺麗です。

[改訂第5版] LaTeX2e 美文書作成入門

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日本語組版についてはこの本が分かりやすいです。初版と第3版を持っていましたが、卒業する時に研究室に置いてきてしまいました。

Scribusのインストール

http://www.scribus.net/ からバイナリをダウンロードできます。Mac OS X版もあります。

基本的な流れ

自己流です。試行錯誤を繰り返してこのような流れに行き着きました。

  1. ドキュメントスタイルの設定
  2. パレットの定義
  3. スタイルの定義
  4. マスターページの作成
  5. ページの作成
  6. 仕上がりの確認
  7. PDF出力

用語はScribusの日本語訳に合わせています。

ドキュメントスタイルの設定

版面を設計します。日本語組版処理の要件(日本語版) が参考になります。

  • 仕上がりサイズを決めます。今回は105mm×210mmの変則サイズ(見開き)にしました。
  • 印刷物は少し大きめに印刷しておいて余白を裁断します。この時の余白を裁ち切りといいます。3〜4mmが一般的です。
  • 本文のフォントサイズを決めます。今回は歩きながら読みやすいよう、大きめの12ptにしました。
  • 行送りを決めます。今回は16ptにしました。
    • 行送りは[タイポグラフィ]-[自動行間隔]で割合指定するか、[ガイド]-[ベースライン設定]で指定します。ベースライングリッドを使いたかったので後者にしました。
    • 今回はベースライングリッドを16ptに設定しました。
  • マージンを決めます。文字送り、行送りに合うようにします。今回は24ptにしましたが、もっと余裕を持たせた方が見栄えがよいと思います。
  • 日本語組版には対応していません。
  • レイアウトは欧文DTPに準じます。
  • 縦組みには対応していません。

パレットの定義

ドキュメントで色を使うにはあらかじめパレットを定義する必要があります。

  • 色はCMYKで指定します。
  • MacBook Airの液晶ディスプレイは明るめなので、実際の色とのギャップは大きいです。
  • デフォルトのパレットにはRGBカラーが含まれています。RGBカラーとCMYKカラーはアイコンの違いで分かります。
  • 添付のカラーマップから新しい色を定義するとスポットカラーになる場合があります。スポットカラーのチェックを外しておきます。

スタイルの定義

本文や見出しのスタイルを定義します。

  • [標準段落スタイル]が版面の基本スタイルになります。
    • 配置は[ベースライングリッドに合わせる]または[自動行間隔]にします。
  • [標準文字スタイル]が版面の基本フォントになります。
  • いくつかの文字スタイルを定義しておき、段落スタイルから文字スタイルを参照します。
  • CSSのようにスタイル間に継承関係を持たせることが可能です。
  • 日本語組版には対応していません。
  • 禁則処理はしてくれません。
  • ルビは振れません。
  • 和欧フォントを混在させるにはボックスを和文フォントに指定し、英字だけ欧文フォントに変更する必要があります。非常に面倒な作業なので、現実的には和文フォントを使うことになります。

今回は以下のスタイルを定義しました。

  • 標準段落スタイル
    • 表紙 →フォント変更、行間詰め
    • ページタイトル
    • ページヘッダフッタ →ページ番号など
    • ボックス本文 →行間詰め
    • 本文
      • 本文見出し →太字
        • 本文見出し英字 →欧文フォントのみ

マスターページの作成

すべてのページの下地となるマスターページを編集します。[編集]-[マスターページ]で編集できます。

  • マスターページはデフォルトで奇数・偶数ページが用意されていますが、必要に応じて追加できます。今回は表紙用に無地マスターを追加しました。
  • ページ番号を挿入するにはテキストボックスを配置し、ストーリエディタの[挿入]-[文字]-[ページ番号]で挿入します。
  • ページを右クリックして[ページプロパティを管理]で、どのマスターページを下地にするか設定できます。

ページの作成

ページにテキストボックスや図を配置します。

  • ボックスはマージンガイドに合わせて配置します。
  • 文字や図はベースラインに揃えて配置します。
  • 図版は外部ファイルから貼り付けます。解像度が低いと出力時にモザイク状になってしまうため、最低でも300〜400dpiにします。Gimpで拡大するなど。
  • 図がページの端にかかるデザインにしたい場合は塗り足しを付けます。仕上がりサイズで切れていると印刷がずれた時に余白ができてしまいます。
  • aiファイルの素材も貼り付けられます。
  • 幅の細い線は出力されないことがあります。印刷屋さんの注意事項に従います。
  • 日本語組版の制約は前述のスタイルで書いたとおりです。

ショートカットキーを覚えておくと便利です。

  • [Command]+[T]でストーリエディタ(テキストボックスの編集ダイアログ)が表示されます。
  • [F2]でプロパティが表示されます。
  • [F3]でスタイルマネージャが表示されます。

PDF出力

[ファイル]-[エクスポート]-[PDF形式で保存]で出力できます。概ね以下でよいと思いますが、基本的には印刷屋さんの指示に従います。

  • すべてのフォントが埋め込みもしくはアウトライン化になっていることを確認します。使用するフォントを追加した場合は設定が漏れていることがあります。
  • [色]-[出力の目的]は[プリンタ]を指定します。これによりCMYKで出力されます。
  • [色]-[スポットカラーをプロセスカラーに変換する]はチェックを入れておきます。パレットでスポットカラーを使用していなければ大丈夫ですが念のため。
  • [製版]-[プリンタマーク]では切り取りマーク、裁ち切りマーク、登録マークにチェックを入れておきます。
  • [製版]-[裁ち切り設定]で[ドキュメントの裁ち切りを使う]にチェックを入れておきます。

出力されたPDFをAcrobat Readerなどで開いて、上記が適用されているか確認します。

見本画像は[ファイル]-[エクスポート]-[画像として保存]で出力できます。

まとめ

Scribusはオープンソースソフトウェアでありながら欧文DTPではかなり使えるレベルになっています。日本語DTPでも制約はありますが、パンフレットや小冊子の制作には使えると思います。