プロセス改善のインセンティブと値切りの誘惑
人月ビジネスの世界では、単金と工数を掛けた値が原価です。売値から原価を引いた値が利益です。発注者は最小の費用で最大の仕事をさせようとし、受注者は最小の仕事で最大の利益を得ようとします。
発注者は費用を下げようとするので、単金もしくは工数を小さくしようとします。工数を小さくするにはプロセスを改善しなければなりません。これは一朝一夕で効果が出るものではなく、あれこれ試行錯誤が必要になります。時間と研究開発費がかかってしまいます。一方で、単金を下げるには品質を下げるか発注先を変更すればよいだけです。すぐに効果が得られます。
単金を下げるとどうなるでしょうか。一般には品質が下がります。そこで、単金と品質が均衡する点に単金が落ち着きます。しかし、ソフトウェア開発は不確定性の固まりです。工場で物を作っている訳ではないので、どうしても対処できない事象が発生します。偶に起こる非常に高度な事象に対処するため、単金の高い人が必要になります。
こうやって、多数の単金の低い人と少数の単金の高い人が混在することになります。最初に述べたようにプロセスが改善されるインセンティブはないため、多くの非効率な作業と、それによって引き起こされる非常に高度な事象に対処するための作業が繰り返されます。
いくら研究開発費を投資してプロセスを改善したとしても、意志決定が行われるレベルで単金を下げる選択肢がある限りは現場のプロセスは改善されないのです。売値を劇的に上げるか、原価を劇的に下げるかを実現した者こそが、この閉塞を打ち破るのかもしれませんね。